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一八はじっと己のつま先を見下ろしている。
二月の寒さは別として、まるで感覚が無かった。
動かそうとするとこわばる。
見下ろしている。
こちこちと、そのつま先は死んで石のようになっている。
「なるほど」
ひどく潔い納得をした。
「……お前は死ぬんだ」
仁が冷たく言った。
一八は当然だと言わんばかりに頷く。
「だろうな」
「悪魔なんか、デビルなんか身に宿すからいけないんだ」
どうしてか酷く泣きそうに顔を伏せている。
一八はそれを、自分の身にやがて来るだろう未来をおびえているのだととった。
「怖いのか、それなら俺にそのデビルを寄こせ」
「嫌だ」
「馬鹿が」
強情っぱりめ、一八の口調はどちらかといえば明るいものだ。わかりきった仁の反応を楽しんでいるようだった。
「こんなになってまで、どうして力が欲しいんだ!」
仁が顔を上げる、隠しもしないで泣いている。
まさか本当に泣いているとは思わなかった一八は愉快そうに喉を反らした。その喉は横皺の刻みも薄い若々しい喉で、干からびて石になったつま先とはまるで違っている。
そこへはまだ死がたどり着いていない。
「どうしてだと?それが――それが三島、いや、俺だからだ」
「……馬鹿だ」
それしか言えないで、仁は沈黙する。
静かになった。
二人が黙った代わりに、氷の塊を水へ放り込んだ時のような、ぴん、ぴんと澄んだ音がする。
一八のつま先から脛にかけて、皹が走り始めている音だ。
「あ……」
「まあまあ、つまらなくもない人生だったな」
一八は壁に後頭部をつけて、天井を見上げた。
よく晴れた日だった、窓から真っ青な空が見えて、死ぬにはもってこいな日だった。
「貴様はそうしていつまでも怯えていろ、人のように」
「おい!なあ、嫌だ、い」
「黙れ」
低い声で一八は仁を制した。
「みっともないところを見せるな、もう、そこまで来ている」
既に一八は目を閉じている。
シャツの襟元から這い上がってきた皹が、滑らかだった首にまでたどり着く。
頬に一筋、皹が入った。
「貴様は……本当に、よく・似ている……」
ごとん、一八の左腕が抜け落ちた。その腕が泣きじゃくる仁の頬へ延ばされたという事は結局誰も知らないままに落ちた。
無理に喋ったせいで、一八の頬には皹が深くびしびしと音を立てて巡る。
既に爪先から風もないのに崩れて、身体を支える事も出来ない。

「………忌々しい事だ」


一八は笑んで、そして塵芥と消えた。

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