あの人がもっと弱くて、
醜くて、
愚かで、
つまらない、
とるに足らない人だったらこんなに憎くはなかったと。
そう、仁は吐き捨てた。李は冷ややかに眉を一つ跳ねただけで、言葉を待っている。
「俺はあの人を殺したいわけじゃない」
「そうとも風間仁、貴様は一八を征服したいのだよ」
「征服?」
「そうだとも」
たっぷりの毒を混ぜた舌がひらめく。薄い唇が開いた。
「激しい抵抗を押さえつけ、自分の支配下に起きたいのだろう。征服したいのだよ、貴様は、一八を」
「それは」
俺の意思じゃない、
投げた言葉のそらぞらしさ。
「あの誰より烈しい、美しい悲しい男を支配したい、その征服欲は悪魔のものじゃない、貴様のものだ、風間仁」
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