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三島 一八は氷で出来ているのだと誰かが言った。
なるほど冷酷、冷徹、冷淡、どれもひややかでとげとげしい様は氷のようだと評してもいい。

「カズヤ!」
ポールの指が一八の腕を掴みにかかる、一八は身をひるがえして走り出した。
背を向けて走る、それはつまりは逃げだった。
逃げる、三島 一八にとってこれほどの屈辱はない。
だがそれをあえて選択した一八の胸の内は誰も知らない。
腕を伸ばして捕まえようとしたポールですらきちんと把握はしていない。

氷はたんなる水があたえられた環境によって牙のような硬度を得たに過ぎない。
触れればたちまち解けてしまう。
もちろん一八はただの氷ではない、北極のそれのように不純物の入らない大粒の氷の結晶だ。常温に放り出そうとも簡単にはしずくを滲ませない。
だが、氷には変わりない。
そしてその硬い氷を解かす炎のような。

ポールはそうした男だった。
抱かれ解かされ、ただのちっぽけな水に戻りたくはない。
一時の心地よさに満たされた代償にしてはあまりにも大きすぎる。

「貴様となんかまっぴらだ」
「クソ、あきらめねーぞ」

一瞬だけ掴まれた手首があさましく熱をもって疼き出した。

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